茶の湯閑話


7:侘び寂び小話


あなたは、侘び・寂び(わび・さび)という言葉に何を思いますか?

たぶん、私を含めて普通の人には、わかっているようでほんとは全然判って居ない、難しい言葉じゃないでしょうか。

私は茶の道を学んではいますが、まだまだ駆け出しです。そんな私には少々内容が重すぎる気がしますが、愚見を交えながら、すこしそのことについて触れてみたいと思います。

侘びと寂び、この言葉の解釈を考えるとき、そこにどういう違いがあるのかというのは非常に難しい問題です。 少々乱暴ですが、実は「侘び」と「寂び」はその意味するところはほとんど同じといっていいかもしれません。
「寂び」は「錆び」と同じ意味合いがあり、もの(物質的なもの)が時の流れの中ですこしづつ古びていく状態を指します。そして侘びとは「精神的な寂び」を表すと言っていいのです。

 室町時代から利休の生きた安土・桃山の時代の美意識は、豪華で耽美的なものでありました。しかし、その対極に、単純美を否定し、時を経て傷(いた)んだわびしい状態の美を肯定する精神的な美意識もあったのです。いわゆる、滅びの美学とでもいいましょうか。「もののあはれ」などという言い方もそれに類するものです。

 この時代は、栄西によってもたらされた茶の文化が次第に根付きはじめた時代です。そしてこの茶の文化にも二つの流れがありました。主流は、中国から渡ってきた道具(今で言う舶来物)や、台子(だいす)などをかざった書院台子の茶と言われる、格式ある重々しい茶であり、そしてまた、バサラと称される、華美な装飾や山海の珍味を集めた酒池肉林の賭事(豪華景品を揃えた、茶の産地を当てるゲーム)のような華やかな茶でした。そしてその対極に、村田珠光の「草庵の茶」という新しい試みがあったのです。

草庵の茶とは、書院の広間を使わず、四畳半という狭い空間で、かざり付けも質素にして侘びた道具を使う茶を旨としたものであります。 しかしながら、その時代、珠光のこの茶はまったく見向きもされないものだったのでした。

その後、下克上の時代、利休の師匠である紹鴎(←正字は鴎の古い字)がその草庵の茶を踏襲し、ついにその弟子利休が侘び茶と言うものを大成したのです。

 あるとき利休は自分の息子道庵に、お客様が来るので庭を掃除するように命じました。道庵は言われた通り綺麗に掃き清めました。すると、利休はその庭の木を揺すってきれいになった庭に葉を散らしたと言う逸話が残っています。 これが「侘び」なのです。

完全に清められているものが、いちばん綺麗で最高なのは当たり前ですが、それでは完全すぎるのです。 そこへ葉を散らす余裕こそが侘びなのであります。 だったら最初から掃除なんかしなくても良いじゃないか、と言うことになるのですが、それではまだ不完全なのです。 つまり完全を経た上での余裕(侘び)でなければならない訳です。

しかしそれは、今の世のような、バブルの頂点を極めた後の右肩下がりの状態を言うわけではありません。そこは間違ってはいけないのです。その証拠に今の経済社会に余裕なんて何処にも見あたらないではないですか。

贅沢や華美を避け、物質的な奢りや悦びを許さず、慎ましさや不自由さ、貧しさに精神の悦びや清純さを求めるのが侘びなのです。簡単にいえば、出しゃばらず、おごらず、静かに質素に、時の流れに身を委ね、心の余裕を楽しむ、それが侘びなのではないでしょうか。

難しい。 書いていて自分でもだんだん訳が分からなくなってきてしまいます。

ただはっきりしているのは、「侘び寂び」に対して、「退廃的な暗さ」というイメージを持っている人を時に見かけますが、そのイメージは明らかに間違っていると言うことです。
利休は「花をのみ待つらむ人に山里の 雪間の草の春を見せばや」という歌を引き合いに出して侘び寂びを説明したといいます。

春、桜をはじめとする、様々な花が繚乱と咲き乱れている様は、まさに見事であり華やかで美しいものです。しかしその一方で、まだまだ雪の残っている山里の雪がわずかに融けたところから名もない草が芽を出している。それだって春なのですね。
厳しい冬の名残の中で楚々と、しかも人知れず芽を出している、それも自然の力であり、溢れんばかりの命の漲りなのです。
利休はこの風景に侘び寂びを見いだしたのではないでしょうか。すなわち侘び寂とは、単に涸れているだけではなく、内なる力の漲りを宿した溌剌さを秘めているといえると思うのです

私はどんな状況になったとしても、驕らず不平を言わず、常に感謝の気持ちを忘れない、そんな余裕のある精神を保つことが今生の望みです。 実際これは本当に難しいことです。 でも、そうした努力を積み重ねることによって、そこから侘びや寂びがわずかずつ見えて来るのでは、と思っています。



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