「雪代難民、福島を行く」の巻
1:ようやく、春 桜花爛漫、山形にもようやく春がやってきた。 例年よりも一週間ほど遅い開花とはいえ、季節は今年も間違いなく春を連れてやってきた。 今年は2月の末から3月にかけて例年以上の大雪が降り、4月に入ってからも肌寒い日が続いたおかげで山々にはまだまだ残雪が残っている。 今年の山形の雪代はいつも以上におそくまで残るだろう。 私事であるが、実は今年に入ってからずっと忙しい仕事があって今季はまだまともに竿を振っていない。 だいぶストレスも溜まってきたが、私にとっては今日がようやく本格的な今季の初釣行、いわゆる自己解禁の日なのだ。 例年、山形が雪代のこの時期、我々は雪代難民となり、雪代の影響のほとんどない渓を求め福島浜通りの渓を訪ねるのを常としているのだが、今年は満を持してこの福島遠征の日を私自身の今季釣行第一日目として選んだのである。 2:春はあけぼの... 朝5時、春とは言えまだまだ朝晩は肌寒い。 ひんやりとした空気を感じながら車のエンジンをかけた。 東の空に登り始めた太陽が薄曇りの空を通して赤くこぼれている。 この分なら陽がのぼればお天気は良くなるだろう。 開花の遅れた桜はたぶん今日一気に咲きほこるに違いない。 西の空の下、山の麓には霞がたなびいていた。 春はあけぼの。 ようようしろくなりゆく.... そんな風景を目にしながら山形の田園の中を車を走らせる。 渋滞を避けた時間のために、2時間もかからないうちに福島に入る。 さすがにこちらでは、葉桜になりかかっている。 かわって桃の花が満開だ。 午前7時に約束通りALPHAさん宅到着。 直ぐにALPHAさんをひろって、あられさんと待ち合わせの場所へ走る。 今回はあられさんに接待してもらう予定。 会場はあられさんのホームリバーである。 はっきりした場所は書けないが、浜通りの雪代のない川(ここではあられ川と呼ぶことにしよう)である。
車を走らせること2時間、待ち合わせの場所に着いた。 あられさんはまだ来ていない。 あられ川は一年ぶりである。 川を見ると水況も落ち着き素晴らしい渓相を見せている。 あられさんを待っている時間ももどかしく、ALPHAさんとウエーダーに着替え始めているとあられさんが到着した。 3:さぁ、戦闘開始! 車からちょっと歩いたところから入渓。 あられさんは昨日すでにこの川を下見したらしい。 入って直ぐのポイントを指し、「昨日あそこでいい型が出たんですよ」と早くもプレッシャーをかけてくる。 ううう、そんなこと言われたって私は久しぶりに竿を振るんだから....。 ま、いいか。 今日はのびのびやれればそれで良いんだから〜。 「釣果があれば儲けもの」くらいの気持ちでいいや。 開き直った私は、ズンズンと先行させてもらった。 でもなんということか。7ヶ月ぶりに振る私のラインはヘロヘロ。 目も当てられない。 ということで、まずは振り込みのリハビリをするところから始めなければならなかった。 トホホ...。 あられさんが水温は9度だと教えてくれる。 さすが浜通りの渓。 今の山形なら高くても4度くらいだもの。 9度もあればドライにも反応があるはず。 とりあえず万能毛鈎であるエルクヘアカディスをチョイスした。 虫も飛び始めている。 お天気は薄曇り。 寒からず暑からず。 なんとはなしにグッドコンディションの予感がする。
ところが、快調にとばしていくが今一反応がない。 こうなるとどうしても毛鈎を替えたくなってしまう優柔不断な私。 やっぱり今の時期は少し沈んだ方がいいのかなぁ、とテンカラ毛鈎に変更。 白のボディにちょっとピーコックを胴に巻きグリズリーのハックル。 赤糸で頭を巻いてあるので、丹頂毛鈎と呼んでいる。 しかしドライフライに慣れてしまっている私には、沈んでいる毛鈎は見にくい。 わずかにどこにあるかわかる程度。 時には全然わからなくなってしまう。 どうも情けない釣りだなぁ。 「ま、いいか」(この切り替えの早さというか、あきらめの早さは私の得意とするところ) 「さて次のポイントは?」と見ると、川の真ん中に大岩があってそこに流れがあたって大きくえぐれている。 毛鈎は見えないかも知れないけど、エイヤッと振り込む。 4:そしてそれは来た! 毛鈎がほど良く沈んだとき、それは来た。 わずかに白く見えていた毛鈎がフッと消え、手元にグッという感覚。 瞬間、私の手首はそのアタリにあわせていた。 竿に気持ちのいい重量感を感じる。 来た!ついに来た!今期初の釣果。 20cmほどの綺麗なヤマメである。 おおおぉ、うれしいぞぉ。 初釣果だぁ。 ヤマメに感謝の手を合わせ、記念写真を撮って流れに返してやる。 ありがとね〜。
私はテンカラ毛鈎の威力を改めて見直した。 さすがはテンカラ毛鈎。 沈めて使えば天下一品。 この毛鈎に取り替えて直ぐに魚が反応するあたりはただ者ではない。 伝統に裏打ちされた凄さを感じさせる。 と、その直後ALPHAさんのドライ毛鈎に反応があった。 それも良型ヤマメのかなりリキの入ったアタックだった。 あー、やっぱドライにも反応があるんだぁ。 意志薄弱、軟弱な私はその魚のアタックを見た瞬間にテンカラ毛鈎への感慨もヘッタクレもなく、さっきのエルクヘアカディスに毛鈎を結び替えたのだった。 あはは〜 だって見える毛鈎の方が楽だし、楽しめるしね。 あられ川は大岩がゴロゴロして変化に富んだ流れ、至る所ポイントだらけである。 それに魚の活性が充分すぎるほど高い。 しかし、案内役のあられさんは今日は接待に徹している。 どんなにか竿を出したいことだろうに、ポイントの99%、私とALPHさんを先行させてくれる。 ありがたいことだ。 私が逆の立場なら絶対半分は先行しているハズだ。(反省) 「あー」「くっそ〜」ALPHAさんはまだ苦戦している。 魚の反応はあるんだけどかけられないと言う。 久々のテンカラで勘が戻っていないらしい。 しかし、ALPHAさんにもついに初釣果があがった。 これまた良型のヤマメ。 おめでとう! 記念写真をパチリ。 その後も、「やった〜」「あ、ばれた」「へたくそ〜」「あっはっは〜」と三人で漫才を演じながら釣り登っていく。 ちょうどお昼に一旦昼食タイム。 ここまで私とALPHAさんが4匹と5匹。 ALPHAさんも勘が戻ったようだ。 この分なら二人ともツ抜けられるかも、と密かな期待が出てくる。
5:こ、こんなに釣れて、えーがしら! 一時間かけてゆっくりと昼食をとり、午後の部を開始。 再開して直ぐに私に釣果。 「えへへ〜」と喜んでヤマメの記念写真をとる。 ですぐ次のポイント。 ありゃ又釣れちゃった! よ〜し、記念写真だ。 じゃまた次のポイント。 バシャ! あー、又釣れた〜! なんかいちいち写真を撮るのが面倒くさくなってしまった。 贅沢な悩みである。 写真を撮らずに直ぐに流れに返す。 なんと、20分くらいの間に3匹も釣れてしまった。 俄然ツ抜けの意欲が湧く。 ALPHAさんも順調に釣果をあげる。 調子が出てきたようだ。 午後からはちょっと風が強くなって肌寒くなってきたが、魚の活性は変わらない。 この川を完全に熟知しているあられさんが「あの白い大岩の向こうが広くなっていて、そこへ流れ込んでいる流芯へ落とせば魚が出ます」と完璧なアドバイスをしてくれる。
そっとそのポイントへ近づき、言われたとおりに毛鈎を落とす。 おっと思うまもなくアドバイス通りの反応があって、また1匹追加。 これで8匹か。あと2匹でツ抜けられる。 「こうなったら20を狙うかなぁ」なんて軽口まで出てしまうくらいに快調である。 ところが、パタリとアタリが止まってしまった。 全然反応のない区間が続く。 先行者がいるらしいとあられさんが言う。(川を上がってから判明したのだがあられさんの読みは正しかった。たしかに先行者が着替えていた) あー、あと2匹なのにぃ。 その後やっともう1匹追加してついにリーチ状態。 しかしそこからが辛かった。 たまに魚のアタックはあるものの先ほどの比ではない。 それに、気ばかり焦ってバラしたりアワセがあわなかったりでどうも歯車が狂ってきてしまった。
6:感動のフィナーレ ゴール地点の橋が遠くに見えてきた。 もうまもなく終了だ。 ここでALPHAさんがついに10匹達成。 ますます私にプレッシャーがかかる。 ううう、オシッコまでしたくなってきたぞ。 私の悪い癖で「もうすぐ終わりだ」と思うと、その途端にプツンと緊張の糸が切れる。 今回も、ゴールが見えた時点で「もうここまで十分楽しんだし、これでいいか」と、一気に集中力が音を立てて崩れていった。 こうなると惰性で竿を振っているだけで、釣果なんかは望めない。 それは充分わかっているのだけど一度切れた緊張の糸はなかなか元には戻らない。 しかし今回の名ガイドあられさんはそこで諦めはしなかった。 「あそこ」「ここ」といろんなポイントのアプローチと攻め方をアドバイスしてくれる。 ALPHAさんも竿を仕舞って、残りのポイントをすべて私に譲ってくれた。 これはその心遣いに報いなければ。 私は自分自身を叱咤し奮い立たせた。 しかし先行者の通ったばかりの渓はそんなに簡単に釣果を与えてはくれなかった。 もはやこれが最後のポイントとなってしまった。 これで今日の結果は決まってしまったようなもの。 最後の毛鈎を落とす。 流れに乗って毛鈎は流れる。 パッシャ! きたーっ! おー! 最後の一振りにきたぞ〜! 嗚呼、なんて感動的な幕切れなんだろう! 同点で迎えた9回裏の攻撃ツーアウト満塁からのサヨナラ勝ち!
ありがとう! ありがとう! いやぁ、もつべきものは素晴らしき釣友だ。 感動で目頭が熱く....はならなかったけど(えへへ)、間違いなく最高にうれしかった。 これをもって、ようやく何も思い残すことなく竿を納めることが出来た。 今年の自己解禁は予想以上の成果と感動をもたらして幕を閉じた。 この成果はこれから訪れる今年の釣行の中身の濃さを暗示してくれているものと信じたい。 沸々とわき上がる今季の釣行への期待と、今日の感動の余韻を楽しみながら私は山形への帰途についた。 我々が釣りを終わるのを待っていたかのように雨が静かに降り始めてきた。 |