さわやかに晴れ渡った新緑の季節。 山懐(やまふところ)に深くいだかれ、聞こえるは瀬の音だけ。 きらびやかに降り注ぐ陽の光を縦糸にして、 時折、鳥のさえずりが綾なして聞こえてくる。 清冽な流れが、はるか山間(やまあい)から 時に優しく、時に厳しく、そして幽玄に流れ落ちてくる。 傍らの岩に腰をおろし、空を見上げれば、木々の間から青い空を流れる白い雲。さて、ここで一休みにしようか。 渓の水をコッフェルにすくい、携帯ストーブで湯を沸かして紅茶をいれる。 ただのティーバックなのに ここで飲めばどんなものにもまさる飲み物に大変身。 このすばらしき自然に心から浸れる瞬間。 至福のひととき。 岩から岩へと水が流れ落ち、水面(みなも)に陽の光が煌めく。 底石がリズムをとるようにゆらゆら揺れる。 雲よりもゆっくりと刻がながれる。 行雲如流水 流れくる水は一瞬たりともその流れに間隙を生ずることなく、 連々として、しかも淡々と流れ行く。 流水無間断 そして、我々の生き行く時間もまたしかり。 いにしえより来る時の流れは現在(いま)を経て、未来永劫へと続く。 この、人の計り知ることの出来ない大きな流れの中のこの一瞬に 我々が生かされていることの奇跡。 しばし感慨に耽ける私の頬を刻がそっと撫でてゆく。 さあ、出発だ! テンカラ竿を握り直し、スッと振る。 ラインはループを描き毛鈎はふわっとポイントへ落ちる。 と、その瞬間水中から黒光りする魚影がさっと走り、 毛鈎をくわえ、体を反転させる。 やった! 魚がくわえたその瞬間、竿を握る手首はグッと翻り、 魚のアタリにあわせる。 手に魚の重みが伝わり、体を振り鈎を外そうとする動きが竿を伝わってくる。 いいぞ、さあ、ゆっくりと近づいて来い。 次の瞬間、私の手にはしっかりと岩魚がつかまれていた。 良い型だ、この岩魚との出会いもまた一期一会の奇跡。 その巡り会いに感謝しつつ、水と時の流れのはざまにそっと岩魚を返す。 さあ、つぎの出会いはどのポイントだろうか。 心躍らせながら私は竿を振る。 陽の光に優しく包まれ、聞こえるは瀬の音、時折、鳥の声が耳をくすぐるだけ....

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