★それは一通の宅配便から始まった

もう間もなく解禁、という2月初旬、ある方から宅配便が届いた。 開けてみると素晴らしい手作りの品が数々梱包されていた。 このページはそれらの品を頂戴したことに始まる。

その作品はなんと竹の根の節の部分で作った素晴らしい仕掛け巻き。そして青竹で作ったスリングと山菜採取用のヘラである。 禁漁期に作ったというその作品の仕上がりは見事という他はなかった。
とても趣味の範囲で作っておられる作品ではない。 その風合いはまさに侘び寂の世界。 テンカラにはピッタリである。

さっそくその方に連絡をとってこれらの作品を郁楓庵で紹介したいと御願いをしたところ、快くOKを頂いた。 あわせて作品の簡単な作り方まで寄稿していただいた。

ここにその作品と寄稿文を紹介させていただく。
(ただしこのページのタイトルは僭越ながら郁楓庵が勝手につけたものであることを付け加えておく) 
もし皆様の中で興味をお持ちになった方は、こんどの禁漁の時に是非挑戦をしてみては如何だろうか。 なお、イニシャルで掲載して欲しいというご要望があったので、ここではH.T.氏とだけ紹介しておくに留めることをご了承願いたい。  また、メールアドレスもお持ちではないので、御連絡を取りたいかたはお手数でも郁楓庵へご一報を。





★禁漁期のこだわり

皆さん禁漁期の過ごし方で大分苦慮されているようですが、それがあるから解禁の楽しみが倍加するというものです。
何と言っても釣り道具をいじくりながら過ごすというのは勿論ですが、過ぎ去ったシーズンを思い返し、来たるべき解禁に思いを馳せながら毛鈎を巻くのはその最たるものと思います。毛鈎巻きも、他人が見たら馬鹿かと思うようなことに私はこだわっています。

★毛鈎の素材は天然素材

たとえば、フライショップなどの釣り具屋へ行くと、色とりどりの毛鈎の材料が並んでいますが、私としては、そう言うものには目もくれず、あくまでも天然素材にこだわります。主に胴を巻く素材は、薇(ぜんまい)の綿毛、綿花、蓑虫の繭?、山繭蛾の繭等々。どうでもいいことなのですが要するに天の邪鬼なのです。

薇の綿毛(写真)は春の釣行時に採取しますが、薇にも普通の薇と夜叉薇など種類が幾つかあります。 また採取する場所によっても色(黒、茶、白)や形状(フェルト状、糸状)が微妙に違っているので使い分けています。

蓑虫は最近少なくなりましたが梅の木の枝などにぶら下がつています。
山繭蛾の繭は初冬になれば葉の落ちた櫟(くぬぎ)の榛で見つけることができます。6月頃にはまだ生きた蛹の入つた黄緑鮮やかな繭があって、それが採れれば山毛欅虫もどきの毛鈎が巻けて最高なのですが、葉の茂つた中でそれを見つけるのは至難の業です。これを紡げば天蚕糸となり超高級絹織物に使われます。

比較的手に入りやすいのは既に抜け殻になっている繭です。(写真)色も褪せていて、幼虫が食い破った穴がありますので糸には紡げませんが、外側を1枚薄く剥いで中の蛹殻を除きお湯のなかで良く揉み、千枚通しの先で丹念にほぐせば綿状になります。

それから何十本かを引き虫して銅に巻けば上から糸で押さえなくても大丈夫です。むしろ毛羽だつて表面張力が増して、針を浮かせる一助になるかもしれません。
素材に拘つているのですから、当然胴や蓑毛を止める糸も絹糸を使います。

鈎も丹吉鈎のように手打ちで作ろうかとも思いますが、これは面倒くさそうなので、今のところ市販のものを使っています。(このへんはすぐ妥協して軟弱)

でも、毛鈎巻きだけでは、素材集めを含めても1ケ月も時間をつぶせません。
禁漁中ずっと巻いていたら多く巻過ぎてしまいます。 私はここ数年で巻いた毛鈎が500本以上も貯まってしまったので、気に入らないのをバラして、鈎だけリサイクルして巻いている有様です。

★「仕掛け巻き」は時間と手間をかけて


 次に仕掛け巻(写真)作りですが、これは時間と手間がかかり根気がいります。
12月から2月にかけて竹を切り出します。私は真(苦)竹を使いますが、利用できるところは肉厚の根元から3節ほどです。切り虫した竹は風通しの良いところで半年ほど乾燥させますが、しっかり乾燥させないと後で割れてしまいます。

梅雨入り前に乾燥が仕上がれば、その時点で細工してしまつた方がベターです。白く綺麗に仕上がります.夏を過ぎて禁漁に入ってから作ると、若干黒く仕上がります。大体、梅雨前後はベストシーズンなので面倒なことをやつている暇などありませんから、乾燥も電子レンジを使ってやってしまう事もありますが、やはり自然乾燥には勝てません。

 細工は先ず節をセンターにして適当な幅で輪切りにします。多少斜めに切ってもおもしろいものができます。ただ機械でないので難しいのですが切断面は極力平行になるように。その時、鋸は良く切れて、なるべく歯の細かいものを使うことです。粗い歯ですと皮の部分にバリができて綺麗に仕上がりません。

 次は実際に糸を巻き付ける部分の溝作りですが、ナイフや彫刺刀では大変ですのでジスクグラインターに切断用のディスクをつけて大まかに溝を彫ります。彫り過ぎますと内側まで穴があいてしまいますのでほどほどの深さに。
この時、竹もジスクもしっかり掴んでいないと多少危険ですし、また結構近所迷惑な音が出ますから町中での作業は要注です。

 粗い溝ができたら次はその溝を滑らかにならす作業です。道具はチェーンソーの日立てに使う棒鑢(やすり)を使います。太さは直径4〜5ミリのものが良いと思います。
従つて前作業の粗い溝を彫るときも鑢が入るか入らないかくらいの溝幅にしておくこと、その前の輪切りを作るときも2本の溝が彫れる幅にしておくことが重要です。

この溝を綺麗にする作業が矢鱈と根気のいる作業です。素手でやると手のひらにマメができること請け合いですかち作業用の皮手袋などをはめてやりましょう。また鑢に太い握りを付けると楽になります。

これで4〜5時間以上は時間をつぶせます。 この作業は削り粉が飛び散りますのでそれなりの場所でやったほうが無難です。

 溝が綺麗になつたら次はセンターに毛鈎を引っかけておく部分の細工です。
これはピンバイスに2〜3ミリのドリルの刃をつけて穴をあけ、あとはナイフの先や丸めたりたたんだりしたサンドペーパーで仕上げます。穴の位置や形状は節の形状に合わせます。蓑毛の当たる部分の穴のあけ方は工夫が必要。うまく工夫すれば鈎先も隠れ、思わぬときに鈎先で指を刺さずにすみます。

 次は鈎素を溝に導く細い溝作りですが、狭ければ狭いほど良いと思うのでピラニアという細工用の鋸がありますからこれを使います。だいたい葉書の厚さくらいの幅です。

 一通りできたら200番前後のサンドペーパーでていねいに全体を磨きます。

 焼判(毛鈎の烙印)は長さ20cm位で太めのボルトの頭にドリルと日本式のお鋸目立て用鑢で作れますので適当に。 焼判などななくても墨で字や絵を書いても充分です。

 あとは塗装です。塗料は熱にも水にも強いウレタン系の透明塗料が良いと思います。その時鈎素の溝がすぐ埋まってしまいますので塗るたびに不要の葉書の端喘ふき取ります。
薄めにした塗料で片側7回づつ位塗り重ねる艶が出てきます。片面を1回塗るたびに12時間くらい乾燥きせますので、1週間は時間がつぶせます。
全体をきちんと塗つておけば、多少乾燥が不十分でも水分を閉じこめてしまいますので割れることはありません。万一ヒビが入ったら溝を作るときに出た粉を埋め込んで瞬簡接着剤をしみこませます。

 仕掛け巻を使うときですが、鈎素を導く溝が外縁に対して鋭角になつている方向に仕掛けを巻いておくと、ほぐす時に引っ掛からなくてほぐしやすいです。

★ストリンガーはしなやかな曲線が命

 次に竹製のストリンガーですが、これは竹が青いうちに細工した有が良いので時期を問いません。時間もそれほどかかる訳ではありんせんし、道具も鋸、ドリル、棒鑢、ナイフ、サンドペーパー、それにガス台があれば充分です。

形も自分の好きなように。 写真のものは片方に尺物を2〜3本はぶら下げられますが、どちらかといえばリュックのアクセサリーといった方がいいかも知れません。
最初の1匹は口から鰓に、ニ匹目は鰓から口に通すときれいにぶら下がります。

これには胡桃の油を塗っておきます。天然のワックスです。 胡桃の実をサラシ(日本手ぬぐいも可)などに包んで、茶巾寿司の要領でひねりますと油がにじみ出てきます。これを丹念に塗りこみます。

★山菜ヘラにもこだわる

最後は独活(うど)、蕗等の山菜取り用の箆(ヘラ)ですが結構役に立ちます。

形はお好きなように。 山菜に金気の物をあてるのが良くないからと拘っているわけではなく、単なる遊びです。写真のものは青竹ですが、よく乾燥して固くなってから使った方がいいです。先の部分が丸くなつたらナイフで削ってください。

 他にも魚籠、シルバー釣師用折畳式タモ付き網(私も既にシルバーで渡渉のときに安心)、竹製岩魚の骨酒用器セット(私は酒を一滴も呑みませんが釣友達に大好評、尤もこれは出掛ける寸前に作って竹が青いうちに使うのが肝要)、山葡萄の皮で件る草鞋、9月最終釣行で採ってくる山葡萄や猿梨(コクワ)のジャム作り、等々禁漁中に手作りするものはまだまだあります。

★禁漁期の過ごし方はあなたのアイディア次第

 以上、一通りやりますと禁漁期を楽しく過ごすことが出来ます。
当然のこととして天然素材は山から採ってくるので材料費は只同然ですが、道具を揃えるとなるとそれなりのお金がかかりますから、既製品を求めたほうが確実に安いです。

そうは言っても無駄なものや非実用的なものなもの、お金にならないもの、説明しないと解らないような物を作ったりするのが男の趣味です。

出来上がった時には自分で巻いた毛針で渓魚を掛けた時と同じような充実感を味わえます。

実際にやるときは呉々も怪我にご注意下さい。そこまでの責任は負いかねますので。

ではたのしい禁漁期をお過ごし下さい。


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